第76回大会若手企画④「家族実践の社会学――行為に着目する家族研究の意義と方法論の検討」

テーマ

「家族実践の社会学――行為に着目する家族研究の意義と方法論の検討」

概要

本シンポジウムは、家族実践(family practice)概念の論点を整理すること及びその発展可能性を明確にすることを目的としている。家族実践とは、イギリスの家族社会学者D.モーガンによって案出された概念である。日本では『家族実践の社会学: 標準モデルの幻想から日常生活の現実へ』(Morgan 2011=2017)として翻訳されている。海外の家族研究では、多様化する家族の諸相をとらえる新たな視角として2000年代以降注目されてきた。同時に、私たちがよく見ている「当たり前の」家族の営みを再考することにも役立つ。しかし、日本の社会学ではあまり用いられていない現状がある。そのような背景をふまえ、この家族実践という概念の、家族社会学の方法論としての可能性を検討していく必要がある。本企画を通して、なぜ家族に関連する様々な相互行為や現象を「あえて」社会学で研究するのかという問いへの答えを提示することを目指す。本企画の意義は、おもに以下の2点である。

第1に、現代社会の変動する「家族」をめぐる多様な実践をとらえる方法論を創出することにつながる。家族の形態やその営み、あるいは家族の自己定義自体も多様である中で、その複数の細々とした、日常的な家族の営みを「実践」という動態的な社会学的な認識方法を用いて記述することができる。

第2に、家族を対象とした社会学的研究の射程を広げ、家族社会学に限らない教育社会学や福祉社会学や医療社会学などをはじめとする隣接領域との接合を図ることにつながる。家族実践は、ジェンダー実践、福祉実践、教育実践、医療実践あるいは労働実践といった多様な実践の複合の中に位置づけられる。例えば、虐待をはじめとする望ましいと思われにくいような経験の家族実践、福祉施設の中に見られる家族実践、医療的ケア児とケアする家族の実践、精神疾患を抱えた人が家族を想起する実践、夫婦仲が上手くいかない場合の夫婦関係調整の家族実践、青年期のがん患者と親の家族実践、貧困を含む複合的な不利が集積する地域で子育てをする母親のネットワーク実践などは、まさに家族をめぐる実践であるが、同時に家族の枠にはとらわれない複数の関与者がいたり、家庭の外に広がる多様な場(端的には施設や地域、病院、学校)で展開されていたりする。これらの事例には枚挙に暇が無い。

2025年度関西社会学会に向けた公開研究会として、第1回(8月27日神戸女学院大学)では『家族実践の社会学』(Morgan2011=2017)の議論や家庭生活を対象とした海外の会話分析的な研究(Goodwin & Cekaite 2018)の概要を確認する。第2回(11月3日大阪大学)は、報告メンバーやゲスト報告者の研究事例に対して家族実践概念を用いて報告する。その上で、第3回(場所・日時未定)では様々な家族の営みを家族実践というレンズを通してみる意義と論点、方法論について整理する予定である。

これらの集大成として2025年度の関西社会学会大会若手シンポジウムを実施する。

企画者

三品拓人 筑波大学(旧:関西大学)

参加者

三品拓人(家族社会学)

岡田玖美子(家族社会学)

松元圭(医療社会学)

笠井敬太(医療社会学)

桑山碧実(教育社会学)

宇田智佳(教育社会学)

西林佳人(福祉社会学)

第76回大会若手企画③「レイウィン・コンネル『マスキュリニティーズ』を再考する」

テーマ

「レイウィン・コンネル『マスキュリニティーズ』を再考する」

概要

日本の男性学は英語圏の議論の紹介や、渡辺恒夫の『脱男性の時代』(1986)を嚆矢に8、90年代頃から学術的な分野として確立された。近年でも雑誌『現代思想』で男性学が特集される(2019年2月号)、海外文献のリーディングスが『男性学基本論文集』として出版される(2024)など、研究の蓄積がなされている。3、40年間の研究動向の中で「男性性は単一のものではなく複数存在しており、男性性間での諸関係を捉えることが重要である」という議論が普及していった。この議論の画期となったのが、オーストラリアの社会学者であるR. コンネルによるMasculinities(初版:1995、第二版:2005)であり、男性性研究の古典として世界各国で翻訳されてきた。

しかし、コンネルの言う「ヘゲモニックな男性性」を「社会的に優位な男性性」と単純にみなしてしまうことをはじめとして、特定の「男性性」を先験的に措定してしまうことの方法論上の問題が指摘されてきた。コンネル自身はそうした批判を受けながら理論・方法論の改訂を試みているものの、日本の男性学はその変化を十分に受容してきたとは言い難いことが指摘されており、近年では批判的に検討されている。

ただし、同書で上記の方法論上の議論が集中的になされているのは実際には第Ⅰ部である。日本においては、第Ⅱ部や第Ⅲ部の議論について要約的な紹介がなされているのみで、これまでほぼ検討すらされてこなかった。

男性学が純粋に学術的な議論にのみ留まらない実践的・臨床的関心を有していることを考慮すると、第Ⅱ部の合計20人以上を対象とした生活史調査や、第Ⅲ部の男性性にまつわるマクロな社会変動を視野に入れた歴史、運動、社会構想についての記述には、今なお汲みつくされていない豊穣な可能性が満ちていると考えられる。

男性学に関心のある若手研究者による「男性・男性性研究会」では、2022年に同書が『マスキュリニティーズ』として邦訳されたことを契機に全体を通読し、5回にわたる読書会を開催してきた。本若手企画の参加者は全員そのメンバーである。その成果もふまえて、主に第Ⅱ部、第Ⅲ部の議論から今後の日本の男性学の発展に寄与するような合評会を実施したい。

企画者

堀内翔平(京都大学大学院)

参加者

西井開(立教大学)

島袋海理(名古屋大学大学院)

田中裕史(名古屋大学大学院)

第76回大会若手企画②「日本の近代を〈宗教的なるもの〉との関わりで考える――戦後の社会学者、思想家、文学者の残した可能性」

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「日本の近代を〈宗教的なるもの〉との関わりで考える――戦後の社会学者、思想家、文学者の残した可能性」

概要

日本において近代社会を理解する際に参照されるのは、西欧の社会学者、思想家、文学者らに思考されてきたものが中心的であったといえよう。例えば、社会学の初学者向けのテキストにはウェーバーやデュルケーム、あるいはマルクスの捉えた社会が紹介されている。しかし、西欧に端を発する近代に適応するべく格闘し続けてきた日本社会は、西欧とは異なる状況の中で特有の思想、文化、歴史を有している。日本社会が実現する近代、そこで生じる様々な問題は、西欧近代のそれらとは決して同様のものではありえないだろう。特に、欧米の近代化の下支えにはキリスト教が存在したこと、そして社会学もその中でつくられた点を十分に理解しないままに、私たちは西欧の社会学者らの議論を自分たちの社会に援用できるのだろうか。この点について、戦後の知識人らは危機感をもって考えていた。たとえば作田啓一はドストエフスキーのキリスト教論を通して、真木悠介はメキシコ・インディオの思想を文明社会と対比させた議論を通して、大村英昭は親鸞論を通じて日本で社会学を行うとはどういうことかを考えていた。また、社会学者ではないが、柳田国男も日本人を祖霊信仰共同体として捉えつつこの点を論じている。

したがって当企画では、宗教と社会学についての議論を学び、研究会で討議したうえで、日本の〈宗教的なるもの〉と近代の関係について日本の社会学者たちがどう捉えていたかを考える部会を開催したい。

企画者

松野靖子(関西学院大学)

参加者

德宮俊貴(社会構想大学院大学)

佐藤裕亮(立教大学社会情報教育研究センター)

松本隆志(関西学院大学)

宮部峻(立命館アジア太平洋大学)

社領雅俊(関西学院大学大学院)

第76回大会若手企画①「死に対処する現代社会の知と実践——『死の社会学』の再起動に向けて」

テーマ

「死に対処する現代社会の知と実践——「死の社会学」の再起動に向けて」

概要

エミール・デュルケームの『宗教生活の基本形態』に示された、死や死者をいかに対処するかが社会秩序の維持に関わっている、という問題意識は、死の社会学的研究における視座の基礎となり、以降、宗教や死者儀礼といった死の集合表象によって、象徴的に死者と生者が社会関係を築く方法が明らかにされてきた。

近年、日本は少子高齢化による人口減少という人口動態の過渡期にあり、年間150万人を超える死亡数への対処をめぐって、国家による死・死者の法的処理、死の医療化、葬儀などの死者儀礼の産業化・商品化など、死の物象化による合理的な死の近代的対処が浸透している。しかし、一方で、遺族等の親密な関係者らは、死や死者の意味を見出す象徴的な連帯を依然として求めている。同様に、戦禍を経た近代国家や共同体で死者をいかに記憶するかという問題提起が見られるように、その内実には、死者が社会的に疎外され、無意味となることへの抵抗があるだろう。このような死の意味をめぐって死の近代的対処との間で生じる摩擦に、現代の死の社会学は注視すべきである。

本部会では、宗教、家族、消費、植民地主義、戦争、記憶、死の意味などの観点から、現代社会における死を契機とする社会秩序の危機への対処のあり方を問うことを目的とする。しばしば、死の社会学的研究は、ミクロな親族の死別に研究対象を狭めてしまう。しかし、いまや、人口動態の変化に代表されるようなメゾ・マクロな現象にも目を向けたうえで、質的・量的に研究を蓄積し、死の社会学の理論を発展させ、応用されるべき状況にある。以上を念頭に、死をめぐる社会現象を対象に研究を進めてきた研究者たちとともに検討を重ね、今後の死の社会学の展開を展望したい。

企画者

藤井亮佑・関西学院大学

参加者

磯部美紀・大谷大学真宗総合研究所

梅村麦生・神戸大学

辻井敦大・甲南大学

韓光勲・大阪公立大学

渡壁晃・関西学院大学

2025年度(第76回)大会若手企画のお知らせ

研究活動委員会より、2025年度第76回大会若手企画についてお知らせいたします。今回は4名の若手会員による企画が採択されています。各企画の概要は、以下のリンク先からご覧ください。

いずれの企画も大会当日までに公開研究会やシンポジウム等の開催を予定しておりますので、関連イベントの開催にあたっては、本学会ホームページ等でお知らせいたします。

何卒よろしくお願いいたします。

・第76回大会若手企画①「死に対処する現代社会の知と実践——『死の社会学』の再起動に向けて」

・第76回大会若手企画②「日本の近代を〈宗教的なるもの〉との関わりで考える――戦後の社会学者、思想家、文学者の残した可能性」

・第76回大会若手企画③「レイウィン・コンネル『マスキュリニティーズ』を再考する」

・第76回大会若手企画④「家族実践の社会学――行為に着目する家族研究の意義と方法論の検討」

【ご案内】日独の若者文化に関する研究助成について

関西社会学会会員の皆様

(一財)山岡記念財団では、毎年、日本とドイツの若者文化をテーマに、
若手研究者の方に研究助成をさせていただき、シンポジウムで研究成果を
発表していただいています。シンポジウムは、例年2~3月、京都で開催されます。

現在、次年度(2025年度)の研究助成を下記のとおり募集しています。
本研究助成にご興味のある方がおられましたら、ぜひご検討ください。

申請締切:2024年11月22日(金)
助成金額:1件に付き35万円/採択件数:4件(予定)
助成期間:2025年4月1日~2026年1月31日

詳細については、財団ホームページの「2025年度 研究助成募集要項」をご覧ください。
https://yamaoka-memorial.or.jp/research_grant/index.html

同志社大学社会学部社会学科教員公募

同志社大学社会学部社会学科では専任教員(任期なし)を募集しています。詳しくは下記をご覧下さい。
https://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekJorDetail?id=D124071050

以下、概要をまとめておきます。

*****同志社大学社会学部社会学科教員(任期なし)公募*****

【募集する研究分野】
社会意識ないし文化に関わる実証的な社会学的研究

【担当予定科目】
(1)演習科目(ゼミ):社会学演習、卒業論文指導
(2)社会学の専門講義科目
(研究業績内容にふさわしい専門講義科目を担当していただきます。)
(3)社会調査士関連科目
(量的調査関連の科目を担当していただきます。)
※以上に加えて大学院の授業・論文指導も担当する場合があります

【応募資格】
(1)博士学位の取得者、もしくはそれと同等の学識・業績を有すること。
(2)社会学の幅広い知識と社会調査にもとづく研究業績を有すること。
(3)本学の教育および業務を担うのに十分な日本語運用能力および実務能力を有し、国際的に活躍しうる英語運用能力を有すること。
(4)大学等での教職歴(非常勤を含む)を有すること。
(5)原則として近畿圏内に居住できること。

【募集人員(職名・採用人数等)】
助教(任期なし)1名
※経歴・業績等を勘案し、准教授(任期なし)の採用とすることもあります。
着任日:2025年04月01日

【募集期間】
2024年07月19日~2024年08月29日 必着
※JREC-IN PortalのWEB応募のみ受け付けます。

龍谷大学教員公募のお知らせ

現在、龍谷大学では次の2件の教員公募を行っております。
1)主たる担当科目「量的調査法」 教授または准教授 1名
2)主たる担当科目「防災とメディア」 教授又は准教授 1名 

採用予定日:2025年4月1日

募集要項等詳細は下記サイトに掲載しております。
https://www.ryukoku.ac.jp/employment/

「NHK アーカイブス学術利用」公募のお知らせ

NHKアーカイブス学術利用事務局より以下のお知らせが届きました。

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★2024年度「NHK アーカイブス学術利用」公募開始

NHKでは、アーカイブス保存の映像・音声を学術研究に利用していただく研究を募集しています。 採択研究者は、東京・NHK 放送博物館、埼玉県川口・NHK アーカイブス、大阪放送局の閲覧室で 希望のコンテンツを閲覧することが出来ます。

○2024年度閲覧期間
2024年10月~2025年3月 (1組30日まで利用可)
○対象者

大学、高等専門学校、公的研究所所属の職員・研究者、大学院生
○締め切り
 2024年8月19日(応募締切日が変更されました、7/1更新)
○募集数
放送博物館 6 組、NHK アーカイブス 4 組、大阪放送局 2 組
応募要項はホームページをご覧ください。
http://www.nhk.or.jp/archives/academic/

『フォーラム現代社会学』第23号(2024)目次

『フォーラム現代社会学』第23号(2024)の目次は、以下の通りです。

目次

▼論文
少女時代の欠如と埋め合わせ
―中国のロリータファッション文化をめぐる生活史から― 馮可欣
ひきこもり経験者が地元・親元を離れることの考察 桑原啓
▼特集 社会学と在日朝鮮人研究
社会学と在日朝鮮人研究 髙谷幸,蘭信三
社会学は在日朝鮮人にとっての国家/民族をどのように捉えるのか 李洪章
インターセクショナリティの視角からの在日朝鮮人女性研究
―交差的抑圧、植民地的家父長制、コミュニティ・アクティビズム― 徐阿貴
在日コリアンと文化的実践―川崎の在日コリアン・ラッパーから考える―川端浩平
コメント
反レイシズムをめぐって 板垣竜太
コメント
在日朝鮮人の複数性と在日研究のアイデンティティ理解 孫片田晶
▼小特集 京都を複眼的に解き明かす
小特集「京都を複眼的に解き明かす」に寄せて 佐藤嘉倫
京都の七夕―文化伝播にみる権威と願望― 川田耕
幕末期祇園の遊女屋名簿からみる遊女と芸者 鍛治宏介
「地域とのかかわりについてのアンケート」から見る関係人口と京都 岡本裕介
▼お詫びと訂正
▼自著を語る
自著を語る~MY FIRST BOOK~ 永田夏来,松村淳
『精神障害を生きる―就労を通して見た当事者の「生の実践」』 駒澤真由美
『不揃いな身体でアフリカを生きる―障害と物乞いの都市エスノグラフィ』仲尾友貴恵
『「ひきこもり当事者」の社会学―当事者研究×生きづらさ×当事者活動―』伊藤康貴
『職業婦人の歴史社会学』 濱貴子
『「名誉白人」の百年―南アフリカのアジア系住民をめぐるエスノ-人種ポリティクス―』山本めゆ
『定時制高校の教育社会学―教育システムの境界と包摂―』 佐川宏迪
『家事育児の分担にみる夫と妻の権力関係―共働き家庭のペアデータ分析―』孫詩彧
▼関西社会学会大会奨励賞 受賞者の言葉
序文―「受賞者の言葉」の輝き― 蘭信三
見田宗介の他者・関係論―概念図式の整理― 德宮俊貴
文化ナショナリズム構築におけるローカル/ナショナルの力学―「戦艦大和のふるさと・呉」を事例に― 塚原真梨佳
台湾の「同性婚」問題をめぐる言説の編成──合法化におけるフレーム調整過程を中心に── 陳暁嘉
「有責な人格」としての「自己」と「十分な自由」の概念分析―我々はいかにして「自己責任」を運用するのか― 稲葉渉太
イスラモフォビアを背景とした国外脱出の研究―フランスのムスリムによるドイツへの移住を事例に― 山下泰幸
▼書評
駒澤真由美 著『精神障害を生きる―就労を通して見た当事者の「生の実践」―』樋口麻里
Edited by Tamara Enomoto, Marlon Swai, Kiyoshi Umeya, Francis Nyamnjoh “Bouncing Back: Critical Reflections on the Resilience Concept in Japan and South Africa” 松田素二
神原文子 著『部落差別解消への展望―人権意識調査結果から人権啓発の課題がみえた―』 阿久澤麻理子
塩田潤 著『危機の時代の市民と政党―アイスランドのラディカル・デモクラシー―』 太田美帆
妹尾麻美 著『就活の社会学―大学生と「やりたいこと」―』 橋口昌治
阿部潔 著『シニカルな祭典―東京2020オリンピックが映す現代日本―』 町村敬志
中里英樹 著『男性育休の社会学』 角能
本郷正武・佐藤哲彦 編『薬害とはなにか―新しい薬害の社会学―』 金子雅彦
真鍋公希 著『円谷英二の卓越化―特撮の社会学―』 松井広志
金悠進 著『ポピュラー音楽と現代政治―インドネシア 自立と依存の文化実践―』 森田良成
村田泰子 著『「母になること」の社会学―子育てのはじまりはフェミニズムの終わりか―』 鈴木富美子
土屋敦・藤間公太 編著『社会的養護の社会学―家庭と施設の間にたたずむ子どもたち―』 大日義晴
▼学会活動報告
2023年度大会プログラム
▽諸規定
▽編集後記 吉田純