今回は大会初日土曜(5月25日)の午後に、開催校シンポジウム「戦争社会学の可能性と課題―岩波シリーズ『戦争と社会』を手掛かりに―」を企画しています。
「戦争の時代」「戦時下で生きる」という言葉がリアリティを持つ状況に私たちはある。2022年2月24日ロシアによるウクライナ侵攻に始まりいまも続くロシア・ウクライナ戦争、2023年10月7日ハマスによる越境攻撃とイスラエルの報復攻撃によるパレスチナでの暴力の応酬と惨状を目の当たりにし、私たちは「戦争と暴力」に立ちすくんでいる。
第二次世界大戦、あるいはアジア太平洋戦争が終結して78年が経つ。敗戦で日本社会は軍隊・戦争を放棄し、長らく「平和国家」として戦争と「直接」は関係のない「戦後」社会を生きてきた、とも言えよう。もちろん、戦後も国共内戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガニスタン紛争、9・11以降の米国によるイラク派兵等多くの戦争と紛争に直面してきた。だがいまほど「戦争」「戦時下」という言葉が強く響く状況はなかったかもしれない。
日本社会は「平和研究」には長い伝統を持つが、「戦争研究」の歴史は浅い。この10年ほどで「戦争社会学」というジャンルが確立されつつある日本の社会学界にとって、いまのこの状況をどう見るかという難問が突きつけられていると言えよう。そして多くの社会者、日本社会は「戦争社会学」が眼前の状況をどう見ているか、どう研究するかに強い関心を持っているだろう。本来、社会学会や社会学者は現状を緊急課題として論じるべきであろう。だがここはいったん立ち止まり、日本における「戦争社会学」がどのような研究をしてきたのか、戦争社会学はどのような研究射程を持つのかを見定めてみる作業も欠かせないだろう。
まったく意図せざる結果ではあるが、野上元、福間良明、石原俊、西村明、佐藤文香、一ノ瀬俊也に私をくわえたメンバーは、2013年頃から戦争社会学に関する講座ものの企画を検討しはじめ、2021年2022年と5巻シリーズを岩波書店から刊行した。このシリーズには50本の論考が収められており、現段階での社会学による戦争研究の到達点となっている。
そこで、ウクライナとガザの現状をにらみながらも、このシリーズは何を明らかとしたのか、社会学は戦争をどのように明らかにできるのかを4名の社会学者、歴史学者と共に検討したい。そして、その批判に基づきながら、編者たちはこのシリーズで何を明らかにしたかったのか、さらにはアジア太平洋戦争と戦後日本社会を主たるフィールドとする戦争社会学による研究の個別性と普遍性、すなわち限界と可能性を振り返っていきたい。この作業を踏まえたうえで、最後には、やはりウクライナとガザの状況への各論者たちの視点も紹介し、戦争社会学研究の今後の展開を展望したい。
報告者
山本昭宏(神戸市外国語大学)
長 志珠絵(神戸大学)
津田壮章(京都大学)
吉田 純(京都大学)
討論者
野上元(早稲田大学)
石原俊(明治学院大学)
西村明(東京大学)
岩崎稔(大和大学)
福間良明(立命館大学)
佐藤文香(一橋大学)
一ノ瀬俊也(埼玉大学)*
*はオンライン参加
司会
蘭信三(大和大学)
加藤久子(大和大学)
(大会実行委員会委員長 蘭信三)