第76回大会若手企画③「レイウィン・コンネル『マスキュリニティーズ』を再考する」

テーマ

「レイウィン・コンネル『マスキュリニティーズ』を再考する」

概要

日本の男性学は英語圏の議論の紹介や、渡辺恒夫の『脱男性の時代』(1986)を嚆矢に8、90年代頃から学術的な分野として確立された。近年でも雑誌『現代思想』で男性学が特集される(2019年2月号)、海外文献のリーディングスが『男性学基本論文集』として出版される(2024)など、研究の蓄積がなされている。3、40年間の研究動向の中で「男性性は単一のものではなく複数存在しており、男性性間での諸関係を捉えることが重要である」という議論が普及していった。この議論の画期となったのが、オーストラリアの社会学者であるR. コンネルによるMasculinities(初版:1995、第二版:2005)であり、男性性研究の古典として世界各国で翻訳されてきた。

しかし、コンネルの言う「ヘゲモニックな男性性」を「社会的に優位な男性性」と単純にみなしてしまうことをはじめとして、特定の「男性性」を先験的に措定してしまうことの方法論上の問題が指摘されてきた。コンネル自身はそうした批判を受けながら理論・方法論の改訂を試みているものの、日本の男性学はその変化を十分に受容してきたとは言い難いことが指摘されており、近年では批判的に検討されている。

ただし、同書で上記の方法論上の議論が集中的になされているのは実際には第Ⅰ部である。日本においては、第Ⅱ部や第Ⅲ部の議論について要約的な紹介がなされているのみで、これまでほぼ検討すらされてこなかった。

男性学が純粋に学術的な議論にのみ留まらない実践的・臨床的関心を有していることを考慮すると、第Ⅱ部の合計20人以上を対象とした生活史調査や、第Ⅲ部の男性性にまつわるマクロな社会変動を視野に入れた歴史、運動、社会構想についての記述には、今なお汲みつくされていない豊穣な可能性が満ちていると考えられる。

男性学に関心のある若手研究者による「男性・男性性研究会」では、2022年に同書が『マスキュリニティーズ』として邦訳されたことを契機に全体を通読し、5回にわたる読書会を開催してきた。本若手企画の参加者は全員そのメンバーである。その成果もふまえて、主に第Ⅱ部、第Ⅲ部の議論から今後の日本の男性学の発展に寄与するような合評会を実施したい。

企画者

堀内翔平(京都大学大学院)

参加者

西井開(立教大学)

島袋海理(名古屋大学大学院)

田中裕史(名古屋大学大学院)