2021年度第72回大会 特別企画「学術誌のエートスとシステム――ソシオロジ200号刊行を記念して」について

司会:岡崎宏樹(神戸学院大学)

1.『ソシオロジ』のエートスとシステム                    吉田純(京都大学)

2.『ソシオロゴス』のエートスとシステム                馬渡玲欧(日本大学・東海大学)

3.『The Sociological Review』のエートスとシステム  高橋薫(工学院大学)

コメント1.永井良和(関西大学)

コメント2.松谷実のり(追手門学院大学)

学術誌はどのような運営によってその理念を実現しようとしているのでしょうか。この特別企画では,社会学系学術誌のエートスとシステムに光を当てて,その現代的課題を多角的に検討します。

2021年2月,『ソシオロジ』通巻200号が,記念の別冊と共に刊行されました。別冊『ソシオロジ200号のあゆみ』は,記念号の寄稿文,歴代編集代表のエッセイ,総目次・執筆者索引,歴代編集委員・会計監査委員一覧表で構成され,『ソシオロジ』の創刊から現在までのあゆみを振り返る内容となっています。私たちは,この機会に,社会学系の学術誌の「これまで」と「これから」について話し合いたいと考え,この特別部会を企画しました。

関西社会学会と『ソシオロジ』は独特な関係にあります。関西社会学会は『ソシオロジ』が創刊される2年前,1950年に発足しましたが,長らく独自の機関誌をもっていませんでした。関西社会学会の会員と『ソシオロジ』の同人がかなり重複していたこともあり,『ソシオロジ』が実質的に関西社会学会の機関誌の役割を果たしていた時期があったように思われます。けれども,二つの組織がそれぞれ独自に発展するにしたがい,2002年,関西社会学会の機関誌『フォーラム現代社会学』が刊行されることになりました。それから20年の時を経て,『フォーラム現代社会学』は今年第20号を刊行するに至りました。こうした歴史的経緯をふまえて,いま一度,『ソシオロジ』と『フォーラム現代社会学』の関係を再考することは興味深い主題です。

しかし,学術誌の全体的状況に鑑みるとき,いま考えるべきは,二つの関係にとどまるものではないように思われます。『ソシオロジ』も『フォーラム現代社会学』も,特定分野ではなく,社会学全般の論文を扱う学術誌です。社会学の専門分化が進み,各専門学会の機関誌が刊行されるなかで,社会学全般を総合的に扱う学術誌が果たす役割は何なのか,改めて考える必要がありそうです。また,各学術誌に固有の査読システムが,投稿者――特に大学院生や若手研究者――の研究を支援するものになっているかを再検討するのも重要な課題です。学術誌の電子公開が一般化するなかで,冊子体を刊行する意義も問われています。近年は,欧米の電子ジャーナルの価格が高騰し,図書予算を圧迫するなか,日本語で書かれた人文・社会系の学術誌が従来のように図書館に安定的に購入されるかわからないとの指摘もあります。

特別企画は,こうした学術誌を取り巻く現状をふまえ,社会学系学術誌のエートスをどのようなシステムで実現できるのかを考える機会にしたいと思います。部会では,3名の報告者と2名のコメンテイターに登壇いただきます。

第1報告は,『ソシオロジ』前・編集代表の吉田純さん(京都大学)です。吉田さんは別冊『ソシオロジ200号のあゆみ』に,この雑誌の歴史を概観する「ソシオロジの現在・過去・未来」と題された貴重な文章を寄稿されています。

第2報告は,独自の編集システムで運営されている『ソシオロゴス』の元・編集長で,『社会学評論』の編集事務も担当された馬渡玲欧さん(日本大学・東海大学)です。

第3報告は,英国『The Sociological Review』の編集事務(Editorial Manager)を担当されている高橋薫さん(工学院大学,ロンドン大学PhD)です。

これらの報告を通して,私たちは,社会学全般を対象とする3誌の「エートスとシステム」を比較検討することができるでしょう。

3つの報告の後,『フォーラム現代社会学』編集長の永井良和さん(関西大学)にコメントしていただきます。永井さんは『ソシオロジ』の編集委員も経験されており,広い視野からお話いただけることと思います。

続いて,松谷実のりさん(追手門学院大学)に投稿者の立場からコメントしていただきます。松谷さんは,『ソシオロジ』投稿論文にて日本社会学会奨励賞(「論文の部」2016年)を受賞されています。当日は,若手研究者が投稿のさいに直面する困難について聞き取りした結果にも言及していただく予定です。

司会は,研究活動委員長で,『ソシオロジ』編集代表の岡崎宏樹(神戸学院大学)です。企画は,岡崎と工藤保則(研究活動委員,龍谷大学)がおこないました。ささやかな試みではありますが,この部会が,社会学系の学術誌の現状と課題について意見交換し,未来の展望を語り合う場になればと思います。

(岡崎宏樹:研究活動委員長,神戸学院大学
工藤保則:研究活動委員,龍谷大学)